フェルデンクライス・メソッド®は、身体の動きを通して能力を引き出す「学習」の方法です。人間が成長過程で動きを学び、動きを通してあらゆることを学ぶ「システム」に基づいて開発されました。近年、各国のPT、OTの間でも広く導入されるようになりました。従来の運動器系を偏重した方法や手技ではなく、対象者自らが学習プロセスを認識し、自己の変化に気づき効率の良い身体の使用法を日常化していく体性感覚へのアプローチです。創始者モーシェ・フェルデンクライス博士は、「心地よい体の動きが“脳”を刺激し活性化させる」ことを発見し、1940年代に一つの体系化されたメソッドとして確立。以来、ヨーロッパをはじめ北米・南米・オーストラリアへと広がり、その実績は教育・芸術・医療など幅広い分野で評価され、現在では日本を含め世界で活用されています。このメソッドは、身体に心地よい動き(呼吸や声、目や口、腕や脚、背骨や骨盤などの部分的あるいは全身の動き)を通し、全身の骨格や筋肉がどのように連携して動いているのかを詳細に体験することで、脳を活性化し、神経系を通してより自然で質の高い動きと機能を身につけていく、学習のためのレッスンです。心地よい体の動きで活性化された脳は、これまでの身体の無駄な動きや力の使い方に気づきながら、如何にすれば余分な力を使わずに効率よく楽に動くかを学習します。その結果、心と身体の双方にわたって無駄な緊張が解きほぐされ、持てる能力を充分に発揮することが可能となります。フェルデンクライス・メソッド®では体を動かすことは目的ではなく、気づきのためのプロセスであり、脳を活性化させるための手段と考えます。それゆえ、フェルデンクライス・メソッド®は「学び方を学ぶ」ためのメソッドとも言われます。ATM(動きを通しての気づき)とFI(機能的統合)に大別されます。
モーシェ・フェルデンクライス(1904-1984)はロシア(ウクライナSlavuta)に生まれたユダヤ人で、少年時代は貧困の中にあったが、苦学の後、応用物理学で博士号を修得、電気工学の学位も取り原子力機関で仕事をした。一時、ソルボンヌ大学のマリー・キュリーの研究室でともに研究に従事していたこともある。1940年、ドイツによるパリ侵略に遭いイギリスに逃れ原子力潜水艦の開発に関わっている。その後、スコットランドでは潜水艦のソナーの改良についていくつかの特許を得ている。1933年、日本から来訪した講道館柔道創始者の嘉納治五郎と出会い、「柔よく剛を制す」肉体的感性に感銘を受け、1936年、フランスで第1号の黒帯となり、ヨーロッパ初のフランス柔道連盟設立メンバーの一員として現在も名を連ねている。若いときにサッカーで痛めた膝の怪我を何とか改善したいと、柔道の経験を活かしたり、高名な方々に会って知識を取り入れました。東洋医学的な考えも取り入れ、東洋的武術観からも学びました。自分のからだを通して実験を繰り返し、ついには膝の問題を克服することとなり、メソッドの根幹が完成しました。1949年、フェルデンクライス・メソッドに関する最初の著作「体と成熟した行動:不安、セックス、重力、学習に関する研究」Body and Mature Behavior. A Study of Anxiety, Sex, Gravitation and Learning.が出版されます。この時期に、G.I.グルジェフ、F.M.アレクサンダー、エルザ・ギンドラー、ウィリアム・ベイツなどのワークについて研究します。そしてスイスに渡りハインリッヒ・ヤコビーと研究をします。博士は 、運動器系のみならず、感覚器系による刺激が動きを生み出すこと、これまでに習慣化された悪い動きを自ら学び直すことによって、気づき、変化、進化させてゆくことをメソッドの中心に据えています。